ある夏の日の強がり

 夏の風物詩の一つに「花火」がある。夜空に輝く3号玉も風流ではあるが、数百円程度で購入できる手持ち花火も、アノ頃の夏の夜を想い出し日々の鬱憤を洗い流すには十分な効果を得ることができる。

ところでこの花火、どこにその効用が隠されているのだろうか。点火してシューパチパチ、30秒もすればただのゴミと化してしまう。その間ただ呆然と眺めているだけではないか。「赤や緑に光り輝く閃光が美しい」「煙の臭いや音が情緒を感じさせる」「消えてしまうはかなさが愛おしい」など、もっともらしい理由を並べてみても、イマイチ納得できるまでのパンチが足りない様に思える。

あれこれ考える内に一つの仮定に辿り着いた私は、それを実証すべくコンビニに駆け込み、「ドラえもん花火セット(不思議メガネ入り)」を購入。すぐさま近所の公園へと向かった。
ひとけのない適度な敷地面積のその公園は、実証実験にはもってこいだ。私はおもむろに「ドラえもん花火セット(不思議メガネ入り)」の封を開け、最もメジャーと思える一本の手持ち花火に火を付けた。すると、これまでの私の疑念を一蹴するに十分な解答がそこにはあった。それは、

『むなしい』

そう、花火は恋人や家族など複数の人間の間で行われる、一種のコミュニケーションツールとしての機能が、あれこれの装飾要素によって風流さや楽しさを発生させるのだ。この本質的な要因は、花火セットに含まれる「へび玉」の存在からも立証される。色や音は一つのスパイスに過ぎないのだ。
注目すべきは、この「むなしさ」は「独身男が夜中に一人で花火をしている」的な客観要素とは異なる点だ。自分の点火した花火が自分以外誰も注目していない、その閉鎖的な孤立感がむなしさを呼び起こすという事実が、今回の実証実験による最大の収穫だ。
逆に言うと、火を付けた花火はまるで自分自身をそこに反映させるかのように、美しく輝いて注目を浴びたい、他より長く激しく燃えたいという、他者の存在ありきの虚栄心や競争心が隠されていたということだ。

実証実験後の考察において、これまでの実験の中にも似た現象が確認できた。「一人鍋」や「一人赤飯」、「一人誕生日ケーキロウソク消し」など、過去の文献に著された結果との共通項を拾い上げ、今後の研究に大いに役立てることができるであろう。

※なお、不思議メガネを試したところ、「むなしさ」が増大したことを付け加えておこう。

2002.08.17 / n_a_r_y